急速に進むペーパーレスの時代。これまで当たり前に紙媒体でやり取りをしていたものが、デジタルツールに変わってきています。日常生活にはあまり馴染みがないですが、債権の存在を記録する電子記録債権も認知度を高めています。本記事では、その電子記録債権について詳しく解説します。
- 電子記録債権について詳しく解説する
- 電子記録債権と紙媒体の債権の違いをまとめる
- 電子記録債権のメリットとデメリットを考える
- 電子記録債権の普及状況と課題を考える
電子記録債権(でんさい)とは
電子記録債権とは事業者(特に中小企業)の資金調達の円滑化を図るため、2008年に「電子記録債権法」の施行を以ってスタートしました。法務省・経済産業省・金融庁による合同の取り組みです。
電子記録債権の概要
これまで、債権は契約書や念書、手形などにより立証されてきました。債権を担保にお金を借りたり、売掛金を獲得しているという意味で自社の信頼性としたりすることで、主に中小企業の強い味方になってきました。
一方で債権は紙媒体が中心で、本物かどうかの見極めに時間と労力がかかることが問題でした。そこで当局は債権の電子化を推進し、国も関わって管理を進めるよう整備を始めました。
電子記録債権制度ができた背景
これまで債権の証明は手形が中心でした。手形は作成のほか交付・保管コストが必要となる一方、紛失や盗難リスクがあります。また分割ができないという難点もありました。
手形にならない債権(売掛債権)も不存在や二重譲渡リスクを排除しきれません。また譲渡を債務者に対抗するために、債務者への通知が必要でした。債権者は債権譲渡の事実を知られると経営悪化と予測されるなどのデメリットがあり、通知に強い抵抗がありました。
他の決済手段との違いは
電子記録債権は手形と異なり、電子データ送受信による債権発生・譲渡のリアルタイムな管理が可能です。また記録機関の記録原簿で管理するため保管コストや、盗難・紛失リスクもなくセキュリティも万全で、分割対応も可能です。
また、売掛債権と比較しても電子記録債権の特長があります。電子記録により債権の存在・帰属が可視化されており、債権の存在確認などのコストや二重譲渡のリスクが低減され、譲渡に対しても通知等は不要です。
特定の債務者に対し優位性を主張することを人的抗弁といいますが、電子記録債権は原則として人的抗弁は切断されています。
期日振り込みとの違い
売掛債権の現金化には期日振り込みという方法があります。60日後や90日後に入金をする方法です。電子記録債権でも期日振り込みはもちろん可能ですが、手形割引の利用不可などの弊害も生じます。
手形との違い
電子記録債権と手形の違いは何でしょうか。最大の違いは電子記録債権は電子データ、手形は現物という点です。特にWEBサイトを中心に商取引、債権債務の実行が行われている背景を考えると、現物の手形は時代に即していない面があります。
電子記録債権のメリット
電子記録債権を利用すると、債権支払においてどのようなメリットがあるのでしょうか。
債権の紛失・盗難防止
メリットの1つ目は紛失・盗難防止です。電子記録債権はそもそも現物が存在しないため、紛失という概念もなく、盗難のリスクもありません。これまで手形を管理するために金庫を揃えたり、担当者を置いた苦労は電子記録債権によって必要なくなります。
取り立て手続き不要
電子記録債権は取り立て手続きが不要です。支払い期日になると自動的に資金が送金されるため、支払口座にお金があれば支払われます。これまでのように支払いに難がある企業や個人に対して、取り立てるコストは無くなります。
複数の支払い手段が一本化できる
電子記録債権は一括管理のため、これまで複数で走っていた支払い手段を一本化することができます。対社内としても電子記録債権の該当ページを確認すれば、現状を共有することが可能です。
譲渡や割引が分割化できる
手形の最大のデメリットは分割できない点でしたが、電子記録債権では自由自在に分割、割引、譲渡することができます。電子記録債権の登場により、債権活用の自由度は著しく上昇したといえるでしょう。
個人事業主も利用可能
電子記録債権は審査を通過し、利用契約を締結すれば個人事業主でも利用できます。中小企業のなかには個人名で仕事を受けているケースもあり、電子記録債権は、そのような状況の場合も利用可能です。
二重譲渡のリスク回避
電子記録債権は一元管理されています。発生記録や譲渡・支払記録の管理もされているため、二重譲渡は発生しません。
二重譲渡が発生するのは、管理プロセスが複数あり、同時進行で債権の譲渡や支払いなどが行われるためです。一元管理を前提としている電子記録債権は、二重譲渡のリスクが100%無いといえるでしょう。
印紙税が非課税
電子記録債権は印紙税が非課税です。印紙税は紙媒体で契約書などを作成したときに添付する印紙による税金です。電子記録債権を活用することによって印紙税分のコストを削減することができます。
POファイナンスで資金調達できる
電子記録債権を活用することで、早期の現金化をすることができます。いわゆるPOファイナンスといわれるものです。
スピード感の増す現在の中小企業経営において、支払期日を待たず債権を現金化する必要のあるケースはとても多いです。その時に一元化管理している電子記録債権があれば、中小企業や経営者は短期間で資金調達することができます。
電子記録債権は、POファイナンスによる資金繰りととても相性が良いものといえるでしょう。
電子記録債権利用の注意点
ここからは、電子記録債権のもつ注意点やデメリットを解説していきます。
手数料が必要
1つは手数料です。窓口となる金融機関が手数料を決めており、電子記録債権を利用するには手数料が必要です。必要な手数料は金融機関によって異なるため、電子記録債権を使った方がコストが安いのか、試算をしたうえで利用するようにしましょう。
普及が進んでいない
国の肝いりで導入された電子記録債権ですが、まだ浸透はしていません。債権を扱う金融機関や士業の世界では電子化(デジタル化)が進んでおらず、従来の方法が踏襲されていることが主な理由だと考えられます。
どこかの金融機関が音頭を取れば普及も早まるかもしれませんが、現状は宝の持ち腐れになってしまう可能性もあります。
個人での利用不可
また、個人で扱うことができれば普及促進になる可能性もあります。ただ現状、電子記録債権は法人および登録した個人事業主に利用が限られています。個人での利用不可は、電子記録債権が広まらないひとつの理由といえるでしょう。
セキュリティ面でのリスクがある
国が推奨し一元管理しているといわれても、ハッキングなどを受ける恐れがあります。個人情報の流出懸念があるだけではなく、電子記録債権の管理機能で預かっているのは「債権の発行実体」というとてもセンシティブな情報です。
万が一のセキュリティのリスクを考えると、従来のように金庫で預かっておこうという流れも理解できなくはありません。
小規模ではメリットがあまりない
前項のメリットで印紙税の負担が少ない点をお伝えしましたが、そもそも事務負担が軽い場合は印紙税は大きな負担になっていません。電子記録債権を導入することでオペレーションの負荷が生じるなかで、得られるメリットが印紙税の削減だけでは、少し弱いという部分も否定できません。
会計処理を変更する手間がかかる
電子記録債権の対象になる金融機関などでは、作業フロー変更に伴い混乱を避けます。電子記録債権が広まらない1つの原因ともいえるでしょう。
債権者・債務者双方の利用が必要
自分たちが革新的に電子記録債権を利用したから取引が便利になるというものではありません。取引に使う機能のため、当然ですが相手方も導入している必要があります。
相手が使っていないので自分たちも必要ないという事態を変えるには、金融機関を統括するような立場から導入を推進する活動が必要といえるでしょう。
電子記録債権利用の手順
電子記録債権を利用する手順についてお伝えします。なお電子記録債権の管理機能において登録債券は「でんさい」という名称で管理しているため、本項ではでんさいという言葉を使用します。
申込み
まずは窓口金融機関に申込みを行います。金融機関を通じて記録原簿に発生記録を行うことで、でんさいが発生します。
審査
でんさいの登録がされたら、金融機関で審査を行います。問題なければでんさいは登録され、譲渡や支払いを行うことが可能となります。
契約の締結
審査に通ったら、利用者と窓口金融機関とでんさいネットの三者間で利用契約を締結します。
おわりに
電子記録債権は現物の手形制度で不便を被っている点を考慮し開発、全国銀行協会という金融機関の統括組織で導入が推奨されています。ただ普及が進んでいるとはいえません。今後、国の法律などでより電子債権が便利になる構図となれば、再拡大も見込める機能といえるでしょう。ユーザー側にはとても便利なので、そうなってほしいものです。