「リモートワークで自分の時間が増えたので副業にチャレンジしたい」「将来のために給与以外の収入源も確保しておきたい」と考える方も多いのではないでしょうか。会社員が副業を始めるケースは年々増加しており、個人事業主への関心は高まっているといえるでしょう。
そこで今回は「会社員をしながら個人事業主になれるのか」に着目し、メリットやデメリット、必要な手続きなどを解説します。会社員と個人事業主を両立させるポイントも紹介するので、将来独立を目指す方は参考にしてください。
会社員をしながらでも個人事業主になれる
会社員が個人事業主として活動しても法的に問題はありません。
2020年に厚生労働省が発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業や兼業を普及させる方針が示され、会社員が個人事業主としてビジネスを始めやすくなっています。
個人事業主の活動は将来の独立や開業につながるうえ、給与以外の収入源としても期待できるでしょう。
会社員と個人事業主は何が違う?
ここで会社員と個人事業主の違いをおさらいしておきましょう。
会社に雇用されている「会社員」
会社員は企業に雇用され、組織の一員として働きます。毎月給与が支給されるため収入が安定し、社会保険や福利厚生も充実する点が魅力です。
一方で会社の方針に沿って仕事をするため、個人の意見が尊重されないケースも少なくありません。また経費計上できるものが少なく、個人事業主と比べて節税が難しい面もあります。
独立して仕事を請け負う「個人事業主」
企業に雇用されず、独立して利益をあげるのが個人事業主です。働く時間や請け負う仕事を調整できるため、自分のペースで活動できるのが特徴です。また確定申告は必要ですが経費計上できるものも多く、会社員と比べて節税面でメリットがあります。
一方仕事がなくなると収入も途絶えてしまうため、案件を絶やさないように継続的な営業活動が求められます。特に開業初期は安定した仕事の確保が難しいため、生活が困難にならないよう事前に十分な生活費を確保しておくことが大切です。
会社員の副業から個人事業主になるのを検討する目安
副業の所得が20万円を超えると確定申告が必要になるため、個人事業主として開業届を提出することを検討してみてください。
個人事業主になると、「青色申告承認申請書」の提出により「青色申告制度」が利用できます。なお、申請書は開業届と同時に提出するケースが一般的です。
青色申告とは最大65万円の所得控除を受けられる節税効果がある制度
青色申告制度を利用すると、最大65万円の所得控除を受けられます。例えば課税所得が100万円の場合、通常は所得税率5%で50,000円の所得税がかかりますが、青色申告で65万円の控除を受けると課税所得は35万円となり、税額は17,500円に減額されます。
青色申告制度を利用しなかった場合は、白色申告になる
一方、開業届や青色申告承認申請書が未提出の場合は、白色申告が適用されます。白色申告は記帳の容易さがメリットですが、特別な控除枠が少ないため、青色申告制度と比べて税負担が重くなりがちです。
なお青色申告制度については、以降の章で詳しく解説します。
会社員をしながら個人事業主になるとどんなメリットやデメリットがある?
会社員を続けながら個人事業主になるメリットとデメリットを紹介します。
メリット
会社員が個人事業主になるメリットは、以下の5つが挙げられます。
- 副業の経費を計上できるため節税対策になる
- 青色申告特別控除を利用できる
- 本業と副業の所得を損益通算できる
- 独立や起業の練習ができる
- 社会保険に継続して加入できる
個人事業主になると、節税方法の少ない会社員でも税金を抑えられるケースが多々あります。
副業の経費を計上できるため節税対策になる
個人事業主は経費計上できるものが多いため、課税所得を抑え税負担を軽くできます。
経費計上できる主な項目は、以下のとおりです。
【経費に計上できるもの】
- 仕事に必要なもの(パソコン、コピー機、ボールペンなど)
- 宣伝広告費(広告、チラシなど)
- 水道光熱費(水道代、電気代など)
- 通信費(電話代、インターネット代など)
- 交通費(ガソリン代、電車賃など)
また自宅を事務所として使用する場合「家事按分(かじあんぶん)」で家賃や光熱費などの一部も計上できます。例えば床面積が50㎡の住宅で10㎡を事業で使用している場合、家賃が10万円のケースでは以下の計算式になります。
- 10㎡÷50㎡=0.2
- 10万円×0.2=20,000円
家事按分で20,000円が経費計上でき、所得税を抑えられます。
青色申告特別控除を利用できる
個人事業主になると、最大で65万円が課税所得から控除される青色申告特別控除を利用できます。
青色申告で65万円の控除を受けるには、以下の条件を満たすことが必要です。
- 原則申告する年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出する(ただし1月16日以降に開業した場合は、事業開始から2ヵ月以内)
- 複式簿記で記帳する
- 所得が「事業所得」か「不動産所得」のいずれかである
- 貸借対照表と損益計算書を確定申告時に添付する
- e-Taxで確定申告をする
複式簿記とは、ひとつの取引を「借方」と「貸方」の2ヵ所に記入する方法です。1ヵ所のみ記入する単式簿記と比べて手間がかかりますが、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成できるため、お金の流れが明確になるメリットがあります。
なお全ての条件を満たしていない場合でも、青色申告の申請書を提出すると55万円か10万円の控除を受けられます。
本業と副業の所得を損益通算できる
副業で損失がでた場合、会社員の所得と損益通算できます。
損益通算とは所得から損失を差し引くことで、所得税を抑えられる制度です。例えば会社員の所得が500万円で副業の損失が100万円だった場合、損益通算で課税所得は400万円になります。
なお損益通算は事業所得が対象のため、開業届を提出していない場合は適用されません。
独立や起業の練習ができる
将来独立や起業を考えている方は、個人事業主になると予行演習ができます。会社員の安定した収入がある状態で、リスクを抑えながら個人事業主としての経験を積めるでしょう。
独立や起業をすると、資金繰りや収支の管理、確定申告などを自分で行う必要があります。規模が小さい副業のうちに各種手続きやお金の管理などを体験すると、独立したときにスムーズに事業を進められるでしょう。
社会保険に継続して加入できる
会社員として働き続けることで、健康保険や厚生年金に継続して加入できる点も大きな魅力です。
個人事業主として独立した場合、国民健康保険や国民年金への変更が必要になり、会社と折半していた保険料が全額負担になります。例えば全国健康保険協会に加入の30歳、標準報酬月額30万円の方が会社員として支払う健康保険料は約15,000円ですが、個人事業主になり同じ収入を得た場合、国民健康保険料は約30,000円です(ただし地域差あり)。
さらに国民健康保険に変更すると、配偶者や子どもの保険料も負担する必要があります。加えて国民年金も配偶者が第3号被保険者から第1号に変更されるため、毎月16,980円支払いが増加します(令和6年度)。
なお、第1号被保険者とは自営業者や無職の人を指し、第3号被保険者とは第2号被保険者(会社員など)に扶養されている配偶者を指します。
会社員と並行して個人事業主の活動をすることで、社会保険料の負担を増やさずに済むでしょう。
参照元:全国健康保険協会「令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」新宿区「令和6年度 国民健康保険料 概算早見表(総所得金額等)」日本年金機構「国民年金保険料」
デメリット
一方会社員と個人事業主を両立する主なデメリットは、以下の4つです。
確定申告の手間がかかる
会社員を続けながら個人事業主の所得が20万円を超えた場合、確定申告が必要です。会社員には年末調整がありますが、副業で得た収入は確定申告しなければなりません。
なお青色申告を考えている場合は複雑な帳簿付けが求められますが、近年は会計ソフトの利用で簡単に確定申告ができるようになっています。
自由時間が少なくなる
会社員の副業は空き時間を活用するため、自由時間が減ります。
例えば今まで自由に使っていた休日や業務終了後の時間などは、副業に充てる必要があります。そのため自由時間が取れないばかりか、十分な休息がとれずに体調を崩して本業に影響が出ることにならないようにしましょう。
会社員が副業する場合はワークライフバランスを意識し、無理のない時間管理が大切です。
退職した際に失業保険をもらえないリスクがある
会社を退職する際、条件を満たしていると通常は失業保険が給付されますが、個人事業主で活動している場合は受け取れません。
失業保険を受給できる主な条件は、以下のとおりです。
- 離職前の2年間で雇用保険の被保険者期間が12ヵ月以上ある(倒産・解雇などが理由で失業した場合は、離職前1年間の被保険者期間が6ヵ月以上)
- 積極的に就職しようとする意思がある
- 仕事を探しているにもかかわらず現在職業に就いていない
個人事業主は「職業に就いている」と判断されるため、失業保険の給付対象になりません。
税負担が増えるケースがある
個人事業主になると、消費税と個人事業税の納付が必要になる場合があります。
消費税は以下のケースで納税義務が生じます。
- 前々年の課税売上高が1,000万円以上
- 前年1〜6月までの課税売上高が1,000万円以上
- インボイス制度への登録
インボイス制度とは消費税の適正な納付を促すために、2023年10月からスタートした制度です。この制度を利用すると、課税売上高が1,000万円以下であっても消費税の申告が必要になります。
一方、個人事業税は、特定の業種で事業所得が290万円以上の場合に課せられる税金です。対象業種は70種類ありますが、代表的なものは以下になります。
- 物品販売業
- 不動産貸付業
- 請負業
- コンサルタント業 など
個人事業主になる場合は、税負担を考慮した資金繰りが大切です。
会社員が個人事業主になるには?必要な手続き
ここからは、会社員が個人事業主になるために必要な手続きを紹介します。
開業届を提出する
個人事業主になるには「開業届」の提出が必須です。事業開始から原則1ヵ月以内に税務署へ提出しましょう。
開業届のフォーマットは、国税庁のWEBサイトでダウンロードできます。名前や屋号、開業日など必要事項を記入し、以下のいずれかの方法で提出してください。
- 税務署の窓口へ持参
- 郵送
- e-Tax
開業届の提出を終えると個人事業主として認められます。
参照元:[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁
青色申告承認申請書を提出する
青色申告を検討している方は「青色申告承認申請書」を提出しましょう。
青色申告承認申請書は、青色申告を受けようとする年の3月15日までに提出が必要です。ただし1月16日以降に開業した場合は、事業開始から2ヵ月以内が期限になります。
提出忘れを防ぐためにも、開業届と同時に申請するのがおすすめです。
事業用の口座開設・クレジットカードの作成
事業用の口座開設やクレジットカードの作成は、個人事業をするうえで大切です。
銀行口座に個人事業とプライベートの収支が入り混じると、どれが仕事の出費なのかわからなくなるケースが多々あります。確定申告や帳簿の作成をスムーズに行うためには、事業用の口座を開設して私的な支出と分けることが重要です。
また事業用の口座に連携したクレジットカードも作成しておくと、経費が明確になるでしょう。
事業用のクレジットカードを作成する場合、ビジネスサービスに特化したカードを選ぶと業務の効率化が望めます。「セゾンコバルト・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード」は会計ソフトと連携できるため、毎月の経費処理も手間がかかりません。クラウドワークスやYahoo! JAPANなどの特定加盟店で利用すれば、永久不滅ポイントが4倍になる限定サービスも展開しています。
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会計ソフトの利用申し込み
確定申告を効率よく済ませるには、会計ソフトの利用が望ましいです。収支の管理や帳簿付けにかかる時間が短縮されるため、多くの個人事業主が活用しています。会計ソフトには、主に以下のものがあります。
- マネーフォワード
- freee
- 弥生会計
会計ソフトは口座やクレジットカードの情報を取り込めるため、さらに簡便化が図れます。また無料体験版が用意されているソフトも多いため、実際に試して使いやすいものを選ぶことも可能です。
会社員と個人事業主を両立するポイント
会社員と個人事業主を両立させるには、ポイントを押さえた活動が大切になります。
- 時間管理を徹底する
- 健康管理に気をつける
- 無理のない範囲で始める
- 長期的な目標を持つ
効率的に時間とエネルギーを使い、バランスを取りながら活動を始めてみましょう。
時間管理を徹底する
会社員と個人事業主の活動を両立するには、作業時間の確保が重要になります。
個人事業主の活動は、会社の勤務終了後や休日に行うケースが多いため、時間を計画的に使わないと事業の進行に支障をきたす可能性があります。特に活動初期はスケジュールを考慮せずに仕事を引き受けることが少なくないため、計画的な時間管理が欠かせません。事前に個人事業に充てられる時間を把握することで、過度な受注を防げるでしょう。
個人事業を並行して行うには、日頃からタイムマネジメントを意識することが大切です。
健康管理に気をつける
個人事業主は、健康管理に人一倍気をつけなければなりません。
会社員は体調不良で欠勤しても給与が保証されるケースが多いですが、個人事業主は仕事を休むと収益の低下につながります。さらに通院や入院などで作業時間が減ると、大幅な収入の減少で日々の生活に支障をきたすこともあるでしょう。仕事時間を増やすことも大切ですが、長時間労働によって体調を崩してしまっては本末転倒になってしまいます。
会社員と個人事業主を両立させるためには、適度に休息を取り、健康維持に努めることも大切です。
無理のない範囲で始める
会社員と並行して個人事業を始めるならば、副業として小規模にスタートすることで、リスクを抑えられます。
事業開始から多額の費用をかけると、失敗したときの損失が大きくなります。また、借金をして個人事業を始めることもおすすめできません。売り上げの見通しが立たないうちから負債を抱えると、精神的にも大きな負担になるためです。
まずは利益の追求よりも、リスク回避を優先して活動するとよいでしょう。例えば物販であれば店舗を構えずにインターネットでの活動から始めたり、初期費用が比較的小さいプログラミングやライティングを選んだりするなど、少ない資金で始められる方法を選んだほうがより安全です。
初期投資はできる限り抑え、少しずつコツコツと成長させていく形が望ましいです。
長期的な目標を持つ
事業を始めるときは、長期的な目標を持つことが大切です。焦らずに時間をかけて少しずつ育てていく意識を持ちましょう。
個人事業を始めると、早く大きな利益を出したい一心で、無理な仕事量を引き受けてしまうケースがあります。その結果、休日や睡眠時間を削って業務をこなすことになり、十分な休息が取れずに体調を崩してしまう場面もあるでしょう。
また体調悪化は、本業である会社員としての業務にも支障をきたします。予期せぬ欠勤や業務の遅延が発生すれば、職場での評価が下がる原因にもなりかねません。
会社員としての業務を確実に遂行するためにも、個人事業は小さな目標からはじめ、将来的な成功を目指して計画的に進めていきましょう。
会社員をしながら個人事業主になる際の疑問点
最後に会社員と個人事業主を両立する際の疑問点を紹介します。
会社に個人事業主になったことはバレる?
個人事業主になり収入が増えると、勤務先に副業が知られてしまう可能性があります。多くの企業は従業員の住民税額を把握しているためです。よって、個人事業主での収入が上乗せされ住民税額が増えると、給与以外の収益があると判断する可能性があります。
会社に副業を知られたくない場合は、確定申告の際に「住民税徴収方法」の選択欄で「自分で納付」を選びましょう。この手続きは普通徴収と呼ばれ、個人事業分の住民税納税通知書が自宅のみに届くため、会社には通知されません。
そもそも会社で副業が禁止されているような場合、副業していることが判明したことで問題になる可能性もあります。副業が認められていても、会社に事前の届け出が必要な場合もありますので、社内規定などを確認しておきましょう。
インボイス制度への登録は必要?
インボイス制度への登録は必須ではありませんが、取引先の状況や事業形態で検討する必要があります。
インボイス制度は、仕入税額控除を適用するための仕組みです。仕入税額控除とは仕入れ時に支払った消費税を、売上時に受け取る税額から差し引ける制度です。これにより納める消費税額を減らせます。
インボイス制度に登録していない場合、取引先は仕入税額控除を受けられません。そのため取引先が課税事業者の場合は、インボイス制度への登録を求められるケースがあります。
登録しない場合は、取引停止や報酬減額などのおそれがあるため、個人事業主は慎重な判断が必要になります。
一方、取引先が一般消費者や免税事業者である場合、インボイス制度への登録は必要ないケースが一般的です。インボイス制度への登録は、ご自身の事業内容や取引先を考慮して検討することが重要です。
おわりに
会社員と個人事業主の活動は両立できます。働き方の見直しや将来の備えのために、副業をするのも有効な手段でしょう。個人事業主になれば、副業の経費を計上できたり、控除額が多い青色申告ができたりするメリットがあります。
一方で、確定申告の手間や自由時間が削られるといったデメリットもあります。今回のコラムを参考に、個人事業主にチャレンジするか検討してみてください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。